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「コミュニケーションの輪」という考え方

僕は以前マイクロソフトで勤めており、駐在員としてアメリカに滞在し、日本のエンジニアとアメリカのエンジニアのコミュニケーションを円滑に行う橋渡しをするような仕事をしていたことがあります。

そのときに、文化的な違い、言葉の違い、お互いの思い違いによって、本当にさまざまなトラブルが発生するものだということを身にしみて感じました。

そのときに、僕が 「コミュニケーションの輪  (Circle of Communication)」 と勝手に名付けている考え方を思いつきました。

今日はその 「コミュニケーションの輪」 という考え方について書いてみようと思います。

あなたが話していることは、あなたの思っていることと違う

A さんが B さんに、何かを伝えようとしているとします。

fig01

そのとき、A さんが伝えようとしていることを、上の図のように薄い赤で塗った円で表します。

A さんが、B さんに向かって、その内容をお話します。

しかし残念ながら、人は思ったことを常に 100%上手に言葉で説明できるわけではありません。必ず、言い間違いをしたり、意図していないことを話してしまったりします。

つまり、図で書くと下の図のような状態になります。

fig03

もともと伝えたいと思っていることと、実際に口に出したことが少しずれてしまっています。

fig04

ある部分は、説明し忘れているでしょうし、ある部分は適切な言葉遣いではなかったために、違う意味のことを話してしまいます。

相手は 「あなたが話した内容」 を正確には受け取れない

それを、B さんが聞いて理解しようとします。

しかし残念ながら、ここでも食い違いが生じてしまいます。

fig05

B さんは必ずしも、A さんが話した内容をそのまま100%正確に理解できるわけではありません。

fig12

ある部分は、聞き逃したり、意味がわからないかもしれませんし、またある部分は誤って解釈してしまいます。

その結果、共通の認識はたったこれだけ

実は B さんは、「A さんが伝えたいこと」 をもとに、そこから解釈するのではなく、B さんはあくまでも 「A さんが話した内容」 をもとに意味をとろうと努めます。

ですから、もともと 「A さんが伝えようと思っていること」 と 「B さんが受け取った内容」 のズレはとても大きくなってしまいます。

fig07

つまり、A さんが B さんに何かを言葉で伝えようとしたとき、「うまく伝わった部分(共通認識)」 だけではなく、 「A さんが自分が言ったと思っているのに、B さんには伝わっていない部分」 と 「A さんが全く意図していないのに、B さんは A さんが言ったと思っていること」 が出てきてしまうのです。

fig08

僕はこのように、 「思っていることを表す輪」 「実際に話したり書いたりした内容を表す輪」 「相手が解釈したことを表す輪」 のズレを利用してコミュニケーションの難しさを理解する方法を、「コミュニケーションの輪の方法」 と名付けています。

お互いが自分は正しく伝えた、自分は正しく聞き取ったと思い込むと、トラブルが発生する

コミュニケーションで一番問題なのは、通常お互いが自分の間違いに気づかない、ということです。

つまり、通常 A さんは 「自分は思っている通りに話した」 と思い込みますし、B さんは 「自分は相手が言ったとおりに理解した」 と思い込むことです。

国語や英語のテストで、全員が常に100点を取るわけではないことを考えると、自分が常に正しく表現したり、解釈したりするわけではないことは明らかです。

しかし、実際にその場で聞いたり話したりすると、お互い自分が正しいと思い込む場合が多いようです。

これが 「言った言わない」 のトラブルの発生につながります。

fig09

逆に言うと、 お互いが 「コミュニケーションの輪」 のズレを理解することによって、自分が誤っているかもしれない、相手も上手に話せていないかもしれない、ということを認め合うことができ、より円滑なコミュニケーションが可能になることでしょう。

英語と日本語ではこのズレはきわめて大きくなる

さらに、思った事を伝える、聞いたことを解釈する力は、第二言語ではきわめて頼りないものになります。

fig10

言いたい事を正確に口に出すことは難しく、相手もタドタドしい言い方から意味を汲まなければなりませんから、受け取る内容も貧弱になります。

fig11

英語のテストで 9 割の正答率で十分でしょうか?

試しに、このズレがどの程度か計算してみましょう。

例えば、日本人同士が英語で会話をする場合を考えます。

TOEIC スコアで 900 点取れるくらいの英語の上級者同士が話したとしても、それでも TOEIC のテストの文章程度の内容を理解することでもおよそ 9 割しか正解しないわけです。

したがって、「思ったことから実際に口に出す」 ところで 9 割。「話したことを受け取るところ」 で 9 割の正答率ですから、結果として、「もともと思っていたこと」 から 「伝わった内容」 は、およそ 0.9 * 0.9 = 0.81 で約 8 割伝わればよいことになります。

それが 600 点程度の人になると大変です。約 6 割の正答率ですから、900 点の人と 600 点の人が話せば、0.9 * 0.6 = 0.54 となり、なんと話した内容の半分も伝われば上出来、ということになってしまいます。

もちろん、実際のコミュニケーションではこんな単純計算にならず、母国語だとしても、テストでは満点をとったとしても、輪のズレはある程度は発生するでしょう。逆にテストの点数の割合以上に伝わっている場合もあるでしょう。

ですが、テストでさえそれだけ間違えてしまう、ということはこの 「輪のズレ」 の問題は、少なくともテストの正答率程度は確実に発生している、と思っていたほうがよいと言えるでしょう。

日本人同士ではなるべく日本語で話したい

僕はこのような考えがあるので、なるべく日本人同士では英語ではなく、日本語で話すようにしています。コミュニケーションの輪のズレを最小限度に抑え、円滑なコミュニケーションを図るためです。

僕は日本では外資系の会社に勤め、ここ数年はアメリカの会社で勤めていますが、そのような環境だと、やたらと英語を使いたがる日本人に出会います。

単純な文法の間違い、時制の間違いなど、全然お構いなしに英語を使いたがる人を良く見かけます。

そのような人にはぜひこの 「コミュニケーションの輪」 を理解してもらい、自分は英語が流暢だ、とおごらず、謙虚になっていただきたいと思うのでした。

June 3, 2009
1:14 am

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